和装と聞くと着物を思い浮かべる人が多いと思いますが、これは着物や和服、呉服や反物などの総称であり、一定の衣服を指す言葉ではありません。
古来から日本人が着用してきた衣服を総称するものであり、現代で親しまれているスタンダードな着物はもちろんのこと、弥生時代に身につけられていた一枚布を巻きつけた袖なし服や、飛鳥奈良時代着用された女性の十二単なども和装に含まれます。
もちろん着物が和装であることには変わりありませんが、これ単体を指すものでは無く、その種類は沢山あるということはよく覚えておきましょう。それぞれの和装ごとに語源なども異なるので、細かい違いを理解しているとより日本独自の衣服に造詣を深めていくことができます。
目次
それぞれ語源が異なる着物、和服、呉服、反物の違いが明確にわかる人は少ない。
現代で親しまれている和装は着物、和服、呉服、反物が代表的なものですが、これらの違いがわかるという人はほとんどいないと言っても良いのではないでしょうか。すでに現代の日常服は洋服が主流となっていますし、最も知られている着物についてもその細かい分類を理解している人はほとんどいません。
しかし日本独自の文化である和装は世界からも注目されるもので、やはり日本人であれば教養としてそれぞれの違いくらいは簡単に知っておきたいものです。特徴さえ知ればそれぞれの違いというのは一目瞭然ですから、ぜひ日本人の民族衣装の教養として知識を学んでみてください。
着物、和服、呉服、反物の違いについて徹底解説
一見全て同じものを指すようにも思える着物、和服、呉服、反物ですが、実際にはそれぞれの言葉が何を指すのかというのは微妙に違ってきます。特に着物と和服、呉服と反物は同一のものを指している気がしますが、それぞれはお互いを区分するものとして使われている言葉です。
そもそも言葉の由来や特徴が大きく異なってくるので、それぞれが一体何を指すのか、どう違うのかについて、ぜひ学んでみてください。細かい意味まできちんと理解することができると、より正しい意味でそれぞれの言葉を使い分けていけるようになります。特に最も身近なものである着物については、語源までよく理解しておけるようにしましょう。
和服とは?特徴や語源がもつ意味。(洋服と区別するために出来た言葉)
和服というのは「和の服」が語源となる言葉で、西洋の衣服である「洋服」と日本の服である「和の服」を呼び分けるために生まれた言葉です。明治時代になると洋服を着用する人が増え始めたため、これと区別すべく日本の服は和服と呼ばれるようになりました。
和服は着物と同義語として使われることが多いですが、着物が長着だけを指すことが多いのに対し、和服は長着だけでなく帯まで結んで着付けが済んでいる状態を指すことが多く、和装全体を大きく指して使われることが大半です。どういうことかと言うと、一般的な着物だけでは無く、浴衣や巫女装束、十二単や袴姿なども広く含めて「和服」とするので、指す範囲が非常に広いということです。
いわば洋服が日本に入ってくる前の和(日本)の服はすべて和服に分類されるので、使い方としてはこのように覚えておくと良いでしょう。基本的に明治時代に洋服が広まるまでに着用されてきた日本独自の衣服は、すべて和服に分類されると考えて間違いありません。和の服か、西洋の服かという区別のために、和服という言葉が生まれたということです。
呉服とは?特徴や語源がもつ意味。
呉服というと着物を売っている呉服屋さんを思い出す人は多いでしょう。そのため呉服もまた着物を指していると思うかもしれませんが、呉服というのはそもそも古代中国の呉という国から伝わった織物の技術のことで、本来は織物、織物技術、それによって作られた反物の総称として生まれた言葉でした。
江戸時代には正絹で作られた衣服や反物を呉服と言うようになり、それに対して綿で作られた衣服は太物と呼ばれ、呉服屋、太物屋それぞれで売られていました。時代が流れると、今度は呉服太物屋という正絹と綿の両方の衣服・反物を扱う店が現れ、結局これが「呉服屋さん」として浸透するようになり、呉服=和服を販売しているお店というイメージに繋がっていくことになるのです。
現代においては呉服=和服という考えで基本的に間違ってはいませんが、そもそもは呉から伝わった織物や織物技術などの総称であるということは覚えておくと良いでしょう。また呉服屋さんについても本来は正絹を扱うお店屋さんであったこと、現代の呉服屋さんは正確には呉服太物屋さんであるということを覚えておくと、マメ知識として活躍してくれます。
反物とは?特徴や語源がもつ意味。
反物というのは、一本に巻き上げられた布の巻物で、着物をしたてる前の布のことです。布の長さを表す単位には反が用いられ、一反は幅約34cmの約12m、これで大体一人分の着物作り上げることができます。また反物は一反ごとに、巻物のように巻かれてあります。
時代の流れで日本人の身体も大きくなっており、現在の一反は幅が37~38cm、長さが12~14mが主流となっています。この布の量で大体170cmくらいまでの人の着物を1枚作り上げることができますが、男性の場合には女性のように着付けの際のおはしょりが必要ないため、幅の広いものを利用すれば190cmくらいの人まで一反で着物を仕上げることができると言われています。
反物は和服用の織物の総称として使われる言葉であり、呉服もまた同じ意味で使われることがありますが、呉服が着物や和服という意味で使われるのに対して、反物はあくまでも布の状態のことを指して使われます。それぞれの言葉の区別についてはこのように理解して使い分けていくということは、よく覚えておくと良いでしょう。
着物とは?特徴や語源がもつ意味。
着物は現代においては和服や着物そのものを指して使われることが多い言葉ですが、そもそもは文字通り「着るもの」を指し、身体に着るものの総称として使われていました。
使われ方が変わってきたのは洋服が入ってきた江戸時代が境いで、それまでは着るものの総称としてと使われていましたが、洋服が浸透しはじめてきた明治時代には、それまで着られていた衣服の総称として使われるようになりました。つまりは和服=着物というような位置づけになり、海外においても着物というのはkimonoの表記で、日本の民族衣装と認識されています。
また着物はまず肌着を着てその上に長襦袢、長着を着ますが、この一番上に着ている長着を着物と呼ぶことも多いです。現代では和服=着物と解釈して間違いはありませんが、着物についてはこのように長着を指して使われる言葉でもあることから、その都度臨機応変に使い分けていくことも必要でしょう。
ちなみに着物の原型は平安時代に着用されていた小袖と言われており、これが室町時代の頃には現在の長着のようになって、現代までその形を保ち親しまれるようになりました。
現代の着物はかつて下着だった。着物の根本は江戸時代に出来上がったもの。
現代において親しまれている着物の原型は平安時代に身につけられていた小袖だと言われています。小袖は十二単のような唐衣裳の下に着る衣装で、白小袖とも呼ばれ、もともとは下着として利用されていました。
鎌倉・室町時代へと移っていくと平安時代に表着として利用されていた袴や裳は省略されるようになり、一番表に着ていた衣服が無くなるのに合わせて、一番内側に身につけていた小袖がより表着として進化し、江戸時代には現代のような着物へと変わっていきました。洋服で言えば初めは下着として利用されていたTシャツがトップスとして利用されるようになったもので、要は着物もまた、カジュアルダウンという形で進化を遂げたものだと言えるでしょう。
現代は自由に着物を楽しめる時代になった
着物は元々階級に合わせて着られるものが区別されており、武士などの富裕階級は絹、庶民や綿や麻しか着てはいけないといったような厳しい区分けがありました。しかし明治時代になると士農工商の身分制度が無くなり、庶民でも上流階級と変わらない着物を着られるようになっていきます。
現代では絹や綿などの素材を自由に選ぶことができるのはもちろん、レースやフリルなどを合わせた様々なデザインで着物を着ることができます。誰でも自由に着物を楽しめるようになり、日本人に限らず外国人でもその魅力にみせられる人は少なくありません。堅苦しい決まりに捉われることなく、歴史上最も自由に着物を楽しむことができる時代になったと言えるでしょう。
着物が世界に注目され世界中で「kimono」と呼ばれている
日本の伝統的な衣装である着物は、世界ではkimonoと呼ばれ、広く認識されています。ヨーロッパでは16世紀頃にはすでに日本の衣服がkimonoとして伝えられていたとも言われているので、世界におけるkimonoの認知度というのもある程度古いことがよく解ります。(参照:着物の歴史を学ぼう|学校法人 織田学園)
外国人からの着物の人気というのも非常に高く、観光で日本に訪れた際にはこれを着用することを楽しみにしているという人も実は少なくありません。着物業界においては、すでに販売よりもレンタルにおけるシェアの方が大きくなりつつあり、訪日外国人向けの着物レンタル、着付けサービスなども市場を拡大しているほどです。
日本人でも自ら着付けができる人が少なくなっていることから、着物が海外で広く浸透するということはなかなか叶ってはいませんが、だからこそ日本に訪れる外国人の中には、着物を着てみたいと望む人がとても多いです。
日本人でも一度も着物を着たことが無いという人は少なくありませんから、もはや着物は日本人だけのものでは無くなり、人種を問わず誰にでも間口が広げられた、望む人誰もが自由に着られる珍しい伝統衣装になりつつあると言えるかもしれません。
日本でも「和女子」「和モノ」に興味をもつ女性が増加。SNS(インスタ、facebook)もあり着物を対象したコミュニティも形成されている。
日常着はもちろん礼装も洋服が当たり前になった昨今では、着物を着る機会自体がめっきり減り、一生のうちに一度もこれを着たことが無いという人も珍しくなくなってきています。しかしその一方で、着物の魅力を改めて見直し、これを積極的に普段の装いに取り入れていく女性というのも増えてきています。
着物は昔のように難しい決まりごとを気にする必要が無く、バリエーションやデザインも豊富になっていることから、より自分好みに自由に着られるようになりました。和に興味がある女性においては小物に限らず着物自体に魅力を感じ、お出かけ着として積極的に利用する人も多く、観劇などの場でもしばしばこういった人を見かけるようになりました。
個性的かつ華やかな着物はインスタなどのSNSでも映え、また海外受けも良いことから、特に若い女性の間で関心を持つ人が多く、積極的に情報交換や交流を深めるためのコミュニティなども形成されています。洋服の普及で一見衰退しているように思われがちな着物ですが、実際にはお洒落な多くの女性に注目され、密かなブームを巻き起こしているのです。
パリコレクションやミラノコレクションで数多くの「着物」をイメージした多くの作品が出展された。
(画像出典:http://www.san-sai.com/sansai/)
世界でも注目度が高い着物は、昔からパリコレクションやミラノコレクションなどでもその独特のニュアンスをデザインに取り入れ、様々な作品が発表されています。
スタンダードな着物とは異なり、肌を露わにした斬新なデザインのドレスやワンピースなどが多いですが、着物の身頃の合わせや帯など特徴的なデザインをしっかりと取り入れていることから一目で着物をオマージュしたものと解り、発表される作品はいずれも高い評価を受けています。
このように着物というのは世界のファッションにおいても注目、人気の高い、日本の誇る伝統的な衣装なのです。
和装は日本人の民族衣装であり、日本の文化である。
カジュアルダウンという形で進化し、誰でも自由に着られるようになった和装は、日本独自の民族衣装であり、歴史の長い文化であるとも言えます。日常においてはなかなか着物を着用する機会は減ってしまいましたが、今後も大切に受け継がれていくべきものであることは間違いありません。
着る機会こそ減ったものの、誰でも自由に着られるようになったことから、着物は着ようと思えばいつでも着ることができる衣装です。趣味やランチなど、ちょっとしたお出かけのお洒落としても利用できますから、ぜひ日本の伝統的な民族衣装として誇りを持ち、積極的に着こなしてみてください。
まとめ
日常服としても用いられてきた伝統衣装でありながら、洋服の普及によって着物は滅多に着ることの無い衣服になりつつあります。しかしその一方で昔のように難しい決まりは無く、誰もが好きなものを好きなように着られるようになり、着物にとっては現代は歴史上最も自由に楽しむことができる時代となっています。
豊富なデザインが揃っており、かつ安価に求められるようにもなり、レンタルや着付けなどのサービスも充実していることから、高価だから・自分で着られないからということは着物を着ない理由にはもはやなりえません。着物に対する敷居を高くしてしまうのは自らのイメージのせいですから、興味があるのであればぜひ一歩を踏み出して一度着物を着てみてください。
着物については和服、呉服、反物など様々な言葉がありますが、これらは全て由来による意味の違いであり、これらについて詳しく知らないからといって着物に向いていないというようなことはありません。
着物はすでにカジュアルに利用できるおしゃれ着としても活用していけるので、知識に明るい特別な人達が着るものという先入観を振り払い、洋服と同じように身近なものとして捉えていってください。